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横断歩道の白と黒の間

セクシュアルマイノリティの人が書くブログ

小説 3

小説

時間が空くと、どこへ行こうとしていたのか忘れますね。

 

読者が一人待っていてくれるので、ちょっとでも書いてみます。

 

VOL.1

hinata1130.hatenablog.com

 

 

VOL.2 

hinata1130.hatenablog.com

 

 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

 

「こんな話、誰かにする日が来るなんて思わなかった。」

 

先輩は氷の解けきったレモンサワーのグラスを両手で包み込み、ため息のように吐き出した。

 

ちょっとからかいすぎたな、と反省しながら、少し空気を変えようと思い、店員呼び出しボタンを押した。

 

すぐにやってきたさわやかな青年に先輩のレモンサワーと自分のウーロンハイときゅうりの浅漬けを注文する。

 

今日は金曜日で、仕事終わりの会社員や、いつだって花金だろうに、と思うような学生が羽目をはずしている。

 

いつもは静かで「大人の女性」が行くようなお店に行くことが多い先輩が、今日は前から気になっている大衆居酒屋に行きたいとリクエストした場所だ。

 

メニューにはいつも先輩が飲むようなおしゃれなカクテルはない。あるのは焼酎にビールにサワー類。

 

つまみは焼き鳥に漬物に枝豆、冷奴。

 

壁に貼られたメニューはどれも茶色く変色し、壁紙に同化している。

 

生ビールのポスターだけが真新しく、見覚えのある女優が微笑んでいる。

 

この居酒屋にセクシュアルマイノリティと呼ばれる性的少数者はいったいどのくらいいるのだろう?大体クラスに1人くらいの割合で存在しているらしい。ということは、この小さな居酒屋に2人いるだけで、かなりの高確率なのだろうか?結婚したいと叫んでいたあの女性の友達は、きっといい人がみつかるよ、と励ましていたのに、大体あんた、いつになったら彼氏作るわけ?干からびちゃうよ!と非難されている。もしかしたら彼女も「こっち側」の人間なのかもしれない。ごく自然に、当たり前のように、ここに存在している。セクシュアルマイノリティです!と表明することもなくごく自然に社会に溶け込んで生きている。ここに存在しているだけで、異性愛者の仲間であると判断される。男と女のラベルで分別される。

 

「お待たせしましたー!レモンサワーとウーハイですねー。あとーきゅうりの浅漬け!こちらお下げしまーす。」

 

青年が威勢よくドリンクを運んできた。

 

私たちは再び、小さく乾杯する。

 

「私、レズビアンじゃない?自分では、男の人もいけると思ってたんだけど。」

 

先輩の中で、整理がついたのだろう。私は続きを促すように静かにうなずいた。

 

「この間、管理部の園田君に食事に誘われてさ。」

 

あぁ、あのひょろめがねか。管理部の園田は、色白で、物静かでか細い男性だ。思い切ったな、と思った。お世辞にも女性づきあいがうまいとはいえないタイプだ。

 

「園田君、分かるよね?彼が、食事に行きませんか?って。この間、仕事でフォローしてもらったから、断るのも気が引けてさ。」

 

「分かりますよ。めがねの無口な彼ですよね。色白の。」

 

「そう。彼。誰がどう見たって、デートですよね、っていうお店に連れて行ってくれたの。コース料理に、綺麗な夜景。行き届いたサービス。見てるだけで幸せなドルチェ。」

 

「どるちぇ……」

 

「そう!ドルチェ!今まで食べてたものは、一体なんだったのかしら!っていうくらいおいしかったよ。」

 

思わず噴出した。純粋に料理を楽しむあたりが、先輩の優しさだよなぁ。

 

「それで。」

 

「それで、ちょっとドライブしましょうって、ライトアップされた噴水まで。」

 

「らいとあっぷされたふんすい……」

 

「『ちょっとそこに座りましょう』って、ベンチに座って。」

 

「ベンチにすわって……」

 

「もう私、その瞬間に、なんで、私はココにこうして、男の人と『綺麗ですね』なんて微笑みながらいるんだろう?って思って。」

 

「そうでしょうね。」

 

「園田君、気遣いが出来るし、優しい人じゃない?結婚するならこういう人がいいんだろうな、って思ったんだけど。自分が何しているのか良く分からなくなっちゃって。これって違うんじゃないかって。」

 

「はい。」

 

「それでね、あ、そっか、私はレズビアンなんだ、って。」

 

「ようやく自分で認めたわけですか。」

 

「そういうこと。」

 

「しかし、ここからですね、茨の道は。」

 

「……ね。」

 

先輩はきゅうりの浅漬けを静かに噛み砕いた。

 

決して、同性愛という事象が当事者の進む道を茨にしているわけではない。きっと先輩は、なにか大きなものと戦おうとか、そういうことではないのだろう。要領よくそれなりに努力もしながら、端から見れば、「デキる人」としての苦悩を抱えながら、流れや空気に抗うこともなく、真っ当に生きてきたのだろう。

そんなときに、自分がレズビアンであると認めてしまうことは、海賊旗を掲げるような危うさがあるのかもしれない。

荒波を航海するには、仲間が必要だ。それで、クルーとして私に白羽の矢を立てたわけか。おそらく、理にかなった理由などないのだろう。どこか類友の空気を感じ取ったのだ。「こっち側」の人間はレーダーを持っていて、なぜか、同類を瞬時に判別する能力に長けているらしい。残念ながら私は、その能力が乏しい。現に先輩を見抜けなかった。

 

「優美とは良く飲むじゃない?」

 

先輩と私は同じ部署で、女性の多くは結婚してやめていくため、現在いる女性は私と先輩だけだ。同性ということもあり、先輩がよく誘ってくれる。恋人はいないし、友達も少ないし、趣味もこれといってないので、喜んで誘いに乗る。週末は大体先輩と飲んでいる。

 

「いつも誘っていただいて。ありがたいです。」

 

「こちらこそ。でさ、優美は合コンとか、彼氏とか、そういう話題、全然しないでしょ?」

 

相手がそういうタイプなら、それに合わせるが、先輩は恋話を一切しない。それもあってか、私も先輩に合わせて、しないだけである。

 

「まぁ、そうですね。」

 

「だからね、優美といると、気が楽だった。架空の彼氏を作ったり、彼女との思い出を彼氏に置き換えたり、理想のダンナ像をつくったり、愛想笑いをしたり。そうやってあわせなくていいから。」

 

正直、私もそれがあって、先輩の誘いは断らない。私自身も気楽だからだ。

 

「そうですね。先輩が話さないから、秘密主義なのかと思ってました。」

 

「ある意味、秘密だよね」

 

いたずらっぽく笑う先輩は、なんだかすっきりした顔をしている。

 

「ははっ。確かに。先輩、わざわざ、話してくれてありがとうございました。」

 

「えっ。こっちの台詞だよ。こちろこそありがとう。」

 

例え、セクシュアルマイノリティにレーダーがあろうとも、それを確信にするには、相手に聞いてみなければ分からない。暗闇を手探りで進んでいくようなものだ。ましてや、自分の性指向を伝えることなど、一歩間違えれば、人間関係が崩壊しかねない。勇気などという生易しいものではない。迫害を受けるかもしれない。心無い言葉で切りつけられるかもしれない。全てを失うかもしれない。社会的に殺される覚悟を刻んで、クローゼットから一歩踏み出すのだ。それが「カミングアウト」なのだ。

 

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